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社会とつながる博士 研究、ビジネス、そして未来への挑戦

Vol.001

物質理工学院 応用化学系
エネルギーコース(博士課程)

足立零生さん

都市を彩る
次世代ソーラーパネル
建材一体型太陽電池の
加飾技術を開発

兵庫県の高専で7年間学んだ後、東京工業大学(当時)大学院に入学しました。物質理工学院 応用化学系 エネルギーコース(博士課程)に在籍し、「建材一体型太陽電池に向けた加飾技術」をテーマに研究を行っています。

地球温暖化対策のひとつとして太陽光発電の普及が求められ、建物のエネルギーのゼロエミッション化に向け建物の壁面への太陽電池モジュール設置が注目されています。しかし、従来の黒色の太陽電池モジュールは景観を損ねるという課題があります。

そこで、この研究では、太陽電池モジュールにさまざまな色や質感を与える加飾技術、特に光の反射率が高い白色パネルの開発に注力し、ガラス表面の凹凸加工や白色膜の挿入など多様な技術を駆使してデザイン性を高め、都市部の景観条例にも対応可能な太陽電池モジュールの実現を目指しています。

異分野融合で未来を拓く
「エネルギー・情報卓越教育院」への挑戦

大学院に入学したのは2020年4月。コロナの影響で半年くらい学校に足を運べなかったのですが、「新たな学びのチャンス」とポジティブにとらえ、オンライン授業以外にも学外のさまざまな研究者や博士によるオンライン講演会に参加し知識を深めていました。

そんな中、2020年12月に「エネルギー・情報卓越教育院」が設立。博士課程で勉学に集中するための経済的な支援を受けられることも大きかったですが、それ以上に、「化学の研究者として専門分野のみに閉じこもらず、他分野の学びにも積極的に挑戦したい」という思いが強かったこと、以前から情報系の授業に興味を持ち、修士課程で学んだ知識を活かしながらデータサイエンスや人工知能(AI)について学べる本教育院に所属することで、より深い知識が得られると思ったことから、応募を決めました。

書類選考、面接選考と審査がありましたが、研究に加え、以前よりデータサイエンスや経営学の授業を受講しており自身の描く未来が本教育院のめざす方向性と合致すると感じていたため、この部分はアピールポイントになったのではないかと思います。担当教授からのアドバイスも受け、2021年4月、「エネルギー・情報卓越教育院」第1期生として登録となりました。

「エネルギー・情報卓越教育院」で博士仲間ができた

「エネルギー・情報卓越教育院」では情報系の科目を取得し、データサイエンスと人工知能(AI)の基礎知識やスキルの習得に加え、これらを単にツールとして使うだけでなく、エネルギー分野特有の“ビッグデータ科学”を対象とした演習もあり、「データサイエンス・AI特別専門学修プログラム」を修了できたことは大きな収穫でした。

本教育院に所属したことにより、多元的エネルギー学理、ビッグデータ科学、社会構想と3つのマルチスコープに関する学びを得られたのはもちろんのこと、博士の仲間ができたことはとても大きいですね。
私の研究室は博士学生が少なく、博士課程では研究に重きが置かれ授業も多くないため知り合いを作ることが難しい環境にありました。しかし、本教育院にはたくさんの博士仲間がいます。

博士課程は卒業するまで困難な道のりを歩むことになりますが、お互いの研究の進捗状況を共有できるだけでも、精神的な支えになりました。また、研究分野が近い学生との情報交換を通して、最新の研究動向を把握し自身の研究につながる機会も多くありました。

さらに、異分野の研究者との交流は、専門知識の不足を補い研究分野を広げる絶好の機会となりました。例えば、自身の研究材料として高分子系を使う場合、高分子についての基礎知識が足りなくても、本教育院の高分子系の博士に器具の使い方や測定方法などについてラフに質問できます。さまざまな専門分野をもつ人材がそろう環境の中で、切磋琢磨しながらかけがえのない友人ができました。

「国際フォーラム」での学びと気づき

本教育院では、カリキュラムの一環として、毎年海外からの参加学生と交流を深めながらグループワークや発表を行う「国際フォーラム」が開催されます。会期は5日間で、2022年はハワイ、2023年はバリ島に行きました。海外からの参加学生と3人1組で共同生活を送りながらチームで課題に取り組み、最終日には発表を行いました。英語でコミュニケーションをとりながらひとつの物を作り上げる苦労は並大抵のものではありませんでしたが、自分自身を大きく成長させることができた気がします。

「国際フォーラム」では海外の研究者と交流することで、海外の修士や博士の研究内容や暮らしぶりを知ることもできました。その中で気づいたことは、海外では博士課程が「職業」として認識され、ステータスが高く尊敬が得られるのに対し、日本での博士課程は「学生」としての側面が強いということです。「今後、日本でも博士の専門性がより評価され支援体制が強化されるにはどうしたらよいか」など、「博士のステータス」についても考えるきっかけとなりました。

国内外の協力機関である企業や世界トップクラスの大学教授と面談する機会もいただき、日本の企業の方からは、博士課程を卒業したあとのキャリアや企業における博士人材の生かし方などについて聞くことができました。このような方々との議論を通し、自分の将来の選択肢が広がるチャンスが得られたのはありがたいですね。

「InfosyEnergyアウトリーチ」というカリキュラムでは、自分の研究が社会においてどのように位置付けられるのか、自身の研究の社会的意義や価値について俯瞰的、多角的な洞察を行い、リポートをとりまとめるというかなり難しいものでしたが、自身の将来を見据える意味においてはとても貴重な経験となりました。

研究とビジネス、二つの道を切り拓く

「博士」というと、「研究ひと筋」といったイメージがありますが、私は、研究以外の活動にも重きをおいています。

博士課程では、研究成果の発表や論文執筆といった本来の活動に真摯に取り組むことはもちろん重要ですが、それだけにとらわれず、研究以外の活動にも積極的に時間を割く人がいても良いのではないか、と考えています。

その流れからいうと、私は博士課程に進学した2022年に本学の環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程に入学、2024年に修了し、「技術経営修士」の学位も取得しました。

また、本学での学びを深めるかたわら2022年には起業し、大学院入試の専門塾事業を行う株式会社INSHIを立ち上げました。株式会社の形態で、私は代表取締役社長。現在は複数のスタッフと業務委託契約し、主に理系の大学院進学をめざす学生のニーズに合わせた指導を行っています。

私自身、もともとひとつの物事だけをずっと続けることが苦手なんですよね(笑)。研究活動と会社の仕事を両立できるよう、現在は、「研究の方向性を明確にして無駄な寄り道を減らす工夫をする」「論文執筆を効率良く行う」などを意識しながら、日々パワーでやりくりしています。

化学の博士号を持っているだけでは、研究者としての価値を高めるのは難しいと感じています。なぜなら、同じように博士号を持つ人はたくさんいるからです。そこで、化学の研究に加え「技術経営修士」も取得し、さらに起業経験も積むことで、他にはない強みを持った人材を目指しています。

研究もビジネスも好きなので、将来は、自身の研究に関連した領域でビジネスに挑戦したいと考えています。
2025年3月に博士課程を修了し、4月から人材系の会社に就職します。副業OKの会社なので、本業はもちろん副業分野でもさまざまな可能性を開拓しながら実践を積み重ねていきたいですね。

博士の可能性を最大限に引き出す学びの場

「エネルギー・情報卓越教育院」は、自分の専門分野だけでなく、他の分野にも興味がある学生に特におすすめです。しかし実際には、博士を目指す全ての学生にとって、本教育院は非常に有益だと言えるでしょう。

「博士の研究者は研究だけしていれば良い」という考え方もありますが、私はそうは思いません。これからの博士には、研究以外のスキルも必要だと考えています。

本教育院では、データサイエンスなど、その人によっては専門外の分野も学ぶ必要がありますが、将来的に優れた研究者になるためには、研究そのものに加え、研究資金の獲得手法や研究成果のプレゼンテーションスキルなどの習得も必要だと考えています。

これまでは、研究に専念する研究者が主流だったかもしれませんが、研究者と一般社会との間にギャップが生まれる可能性もあります。これからは多様なスキルを持つ研究者がいても良いのではないでしょうか。

授業も多く、学会の発表もありますし、大変なこともありますが、博士としてステップアップできる学びの場としてかけがえのないものになると思います。

Profile

物質理工学院 応用化学系
エネルギーコース(博士課程)

足立 零生さん

物質理工学院 応用化学系
エネルギーコース(博士課程)

足立 零生さん

2020年4月
物質理工学院 応用化学系 エネルギーコース 入学(修士課程)
2021年4月
エネルギー・情報卓越教育院 登録
2022年4月
物質理工学院 応用化学系 エネルギーコース 入学(博士課程)
2022年9月
環境・社会理工学院 入学(技術経営専門職学位課程)
2024年9月
環境・社会理工学院 修了(技術経営専門職学位課程)
2024年10月
エネルギー・情報卓越教育院 登録

(2025年2月取材)

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